← 記事一覧に戻る

「M&Aの民主化」を数字で問う——株式会社バトンズ IPO決算書徹底解読

4年で売上4.3倍成長した中小M&Aマッチングプラットフォーム。マッチング手数料・サブスク・FA支援という三層の収益構造と、前期43%減益から2026年3月期第3四半期に一気に急回復した理由、日本M&Aセンター32%株主というリスクを解剖する。

はじめに——なぜこの会社を読むのか

2026年3月、一つのスタートアップが東京証券取引所グロース市場への上場を申請した。株式会社バトンズ。売上高13.8億円、従業員100人、創業2018年。

「誰でも、何処でも、簡単に、自由に、M&Aが出来る社会を実現する」

このビジョンを掲げ、中小企業のM&Aマッチングプラットフォームを運営している会社だ。読み始めたとき、最初に感じたのはこれだ。「この会社はいったい、何で稼いでいるのか」

M&Aプラットフォームと聞くと、不動産サイトや転職サイトと同じ構造を想像するかもしれない。売り手と買い手を繋いで、成約したら手数料をもらう——。しかしバトンズの収益構造は、もう一段複雑だ。成約報酬とサブスクリプションが、プラットフォームとSaaSという二つの軸で組み合わさっている。

第一章——5年間の成長を数字で読む

まず骨格を掴む。売上高の推移はこうだ。2021年3月期が3.2億円。2022年3月期が5.1億円。2023年3月期が7.2億円。2024年3月期が11.5億円。2025年3月期が13.8億円。4年間で約4.3倍になった。年平均成長率に換算すると約44%だ。

しかし見逃せない転換点がある。2024年3月期の経常利益は1.0億円だった。2025年3月期は0.58億円に落ちた。約43%の減益だ。

売上は20%増えたのに、利益は43%減った。この「逆転」には、明確な理由がある。

販売費及び一般管理費が前年比37.4%増、約3億円増加した。内訳は主に二つだ。上場準備コストと、プラットフォームの安全性強化コストだ。

2025年3月期、中小企業庁から複数のM&A支援機関に対して「不適切な買い手企業」に関する指示が出た。バトンズもその対象に含まれた。対応コストが、利益を押し下げた。これは「失敗の証拠」か、「成長痛」か。

第二章——収益構造の解剖 三つの収益源

バトンズの売上は、大きく三つに分かれる。

一つ目は「マッチングサービス」だ。M&Aが成約した際に、買い手から成約価額の2%を受領する。2025年3月期の成約組数は805組、システム利用料単価は72.2万円だった。

二つ目は「ソーシング支援サービス」だ。買い手向けの有料オプションで、月額4,900円から199,800円のサブスクリプション型だ。2025年3月期末の有料会員数は1,238社で、ARPPUは月額1.3万円だ。

三つ目は「FA支援サービス」だ。売り手向けに、M&A交渉の支援を行い、成約価額の5%を受領する。2025年3月期の支援件数は140件、手数料単価は155.7万円だった。

さらに「M&A SaaS」として、M&A支援機関向けに業務支援システムを提供している。2025年3月期末の利用機関数は1,884社、ARPPUは月額1.5万円だ。M&A SaaSの解約率は2.2%——年率換算に近い数字で、SaaS事業としては十分に低い水準だ。

つまりバトンズの売上構造は、「成約時の一時収益」と「月次継続収益(サブスク)」の二本柱だ。

第三章——プラットフォームの「規模」を読む

2026年2月末現在の主要指標は以下だ。累計成約実績:3,315組。交渉可能案件数:10,673件。買い手累積登録数:303,275人。買い手MAU:20,832人。

バトンズは「総合型オープンプラットフォーム」として差別化している。業種や規模を限定せず、個人から上場企業まで受け入れる間口の広さだ。

さらに重要なのは、M&A支援機関とのネットワークだ。バトンズのパートナーとなっているM&A支援機関数は1,968社。中小企業庁のM&A支援機関登録制度全体の約3分の1に当たる。経営革新等支援機関の認定支援機関数は全国で34,847社あり、そのうちバトンズのパートナーは524社にとどまる。つまり、まだ34,000社以上の未開拓の潜在パートナーがいる。この「余白の大きさ」が、成長余地の根拠だ。

第四章——2026年3月期の急加速が示すもの

2026年3月期第3四半期累計(2025年4月〜12月)の成績はこうだ。売上高:13.7億円(前期通期13.8億円にほぼ並ぶ)。営業利益:1.9億円。経常利益:1.9億円。四半期純利益:1.2億円。9ヶ月で前期の通年利益の約3倍を稼いだ。

FA支援サービスの単価が上昇した。2025年3月期の手数料単価が155.7万円だったのに対し、2026年3月期第3四半期は221.3万円まで上がった。「数億円〜数十億円規模の大型案件」を受託・成約させる能力が向上したからだ。

さらにB MASS(金融機関向け業務支援システム)が2025年4月から有料化された。ソーシング支援のARPPUも上昇している。2025年3月期が月額1.3万円だったのに対し、2026年3月期第3四半期は1.8万円になった。

前期の利益減少は「一時的な先行投資」だったと解釈できる。2026年3月期の数字がその答えを出しつつある。しかしここで一度立ち止まりたい。急回復は本物か。それとも一時的な大型案件の恩恵か。

ここまで読んだあなたは、バトンズという会社の「概要」を掴んだはずだ。急成長、プラットフォーム収益とSaaS収益の二本柱、前期の利益減少からの急回復。数字の表面は見えた。

だが、本当に重要な問いはここからだ。

有料パートでは以下を解剖する。

・キャッシュフロー計算書に隠された「この会社が本当に稼げているか」の証拠。 ・自己資本比率64%という財務構造が示す、強さとリスクの両面。 ・日本M&Aセンターホールディングスが32%株主という「親会社リスク」の読み方。

そして最も重要な問い——バトンズのビジネスモデルはAI時代に強化されるのか、それとも代替されるのか。

続きはSIGNAL Caseのプラン登録者限定です

本サイトの内容は、企業分析および学習を目的とした情報提供であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。掲載情報の正確性・完全性を保証するものではありません。