中国を完全に失っても、売上が85%増えた。NVIDIA FY2027 Q1決算解剖|「AIの電気代」を独占する男の、次の一手
中国向けデータセンター売上がゼロになったにもかかわらず、売上は前年比85%増。粗利率74.9%が示す事実上の独占構造と、純利益8.5兆円のうち2.3兆円を占める株式含み益、約17兆円のサプライヤー発注という賭けを解剖する。
はじめに——黒い革ジャンの男が、また言い切った
黒い革ジャンを着て、壇上に立つ男がいる。
台湾で生まれ、9歳で渡米した。30年間、誰も必要としていなかった部品を作り続けた。その部品の名前はGPU。今や世界中のAIが、この部品なしでは動けない。
2026年5月、ジェンスン・ファンはまたやった。
「エージェンティックAIが到来した。これはまだ始まりだ」
数字を見ると、この言葉が冗談ではないことがわかる。
1四半期の売上高:約12兆円(816億ドル)。 1四半期の純利益:約8.5兆円(583億ドル)。 1四半期の手元に残った現金:約7兆円(486億ドル)。
トヨタが1年かけて稼ぐ売上の、約4分の1を、3ヶ月で稼いだ。
しかも前年同期比で売上は85%増。純利益は3倍超だ。
この数字が信じられない理由がある。
今期、NVIDIAは中国向けデータセンター事業で1円も売れていない。
世界第2位のAI市場が完全に閉ざされた状態で、この数字だ。
第一章——「AIの電気代」という独占の構造
まず、NVIDIAが何をしている会社かを正確に理解する必要がある。
「GPUを作る半導体会社」という定義は、半分しか正しくない。
電力会社を想像してほしい。
工場を動かすには電気が必要だ。どんな会社も、どんな機械も、電気なしには動かない。電力会社は「電気を売る」ことで、産業全体の基盤になっている。
NVIDIAはAI時代の「電力会社」だ。
ChatGPTが動くにも、Geminiが動くにも、世界中のAIがNVIDIAのGPUなしでは動かない。GoogleもAmazonもMicrosoftも、NVIDIAなしではAIサービスを提供できない。
しかも電力会社と違い、NVIDIAには競合がほぼいない。
なぜか。CUDAというソフトウェアがある。
CUDAとは、GPUを動かすためのプログラミング環境だ。世界中のAI研究者が20年かけてCUDAで書いたコードが積み上がっている。このコードを他社のGPUで動かすには、全部書き直す必要がある。
乗り換えコストが天文学的に高い。だから顧客は逃げない。
これが粗利率74.9%という数字の正体だ。
比較してみる。ユニクロの粗利率は約50%。ソニーは約25%。トヨタは約20%。
「モノを作って売る会社」でこの粗利率は、事実上の独占を意味する。
第二章——12兆円の内訳に、時代の変化が見える
売上12兆円の内訳を確認する。
データセンター向け:約11兆円(全体の92%) エッジ(PC・車・ロボット):約1兆円(同8%)
データセンターがさらに2つに分かれる。
巨大クラウド企業(AWS・Azure・Googleのこと):約5.5兆円 AI企業・各国政府・一般企業:約5.5兆円
ここに、時代の変化が読める。
半年前まで、NVIDIAの売上はAmazon、Microsoft、Googleへの依存が圧倒的だった。「巨大クラウド5〜6社が顧客のほぼ全部」という構造だった。
それが今、世界中の企業・各国政府のAI投資が「巨大クラウド向け」と肩を並べるところまで来た。
日本で言えば「トヨタとソニーだけが顧客だった会社が、気づいたら中小企業や自治体も顧客になっていた」状態だ。
顧客が5〜6社から、数万社に広がった。
これは依存リスクの分散であり、成長の裾野が広がったことを意味する。
第三章——中国ゼロで85%増という「信じられない事実」
今期の決算資料に、一行こう書かれている。
「中国のデータセンター向けコンピューティング収益はゼロ」
前年同期は約6700億円(46億ドル)あった中国向け売上が、今期は完全にゼロだ。
米国政府の輸出規制で、NVIDIAの主力AIチップを中国に売ることが禁止されている。ライセンスを取得したが、まだ1円も売れていない。
世界第2位のAI市場が丸ごと消えた。それでも売上は85%増えた。
これは何を意味するか。
一方の解釈はこうだ。「中国なしでも成長できる証明だ。心配する必要はない」。
もう一方の解釈はこうだ。「中国が戻れば、さらに爆発する。戻らなければ、この成長は今後も続く」。
どちらも正しい可能性がある。
私が注目するのは別の数字だ。
各国政府のAIインフラ投資が前年比80%増。NVIDIAのシステムが約40カ国に展開されている。インドも、サウジアラビアも、フランスも、自国でAIインフラを作ろうとしている。その全員がNVIDIAを選んでいる。
中国の穴を、世界の国家が埋めている。
この構図が本物なら、中国リスクは構造的に吸収できる。
ここまで読んだあなたへ。
NVIDIAの表の顔が見えた。
独占的な粗利率、中国なしの爆発的成長、世界の国家が顧客になる構造。
完璧に見える。
だが私には、一つの違和感が消えない。
今期の純利益8.5兆円のうち、約2.3兆円は「株式の含み益」だ。本業で稼いだお金ではなく、NVIDIAが投資している会社の株価が上がったことによる評価益だ。
株式市場が下落した瞬間、この2.3兆円は消える。
さらに、NVIDIAはサプライヤーに対して約17兆円の「将来の発注約束」をしている。需要が急減した場合、これが一気に損失に転じる。実際に去年、輸出規制で約6600億円の損失を計上した。
「完璧に見える数字」の裏に、何が隠れているのか。
有料パートでは以下を解剖する。
「8.5兆円の純利益」の実態——本業で稼いだ分と株式評価益を分解し、NVIDIAの本当の稼ぐ力を数字で示す。 約17兆円のサプライヤー発注という時限爆弾——これが利益に与えるリスクの構造。 世界中で同時進行している独禁調査の本質——規制当局が狙っているのは、NVIDIAの最大の武器「CUDA」そのものだ。 そして「Vera CPU」という新市場への賭け——NVIDIAがインテルの牙城に乗り込む理由と、その勝算。
読み終えたとき、あなたはNVIDIAをまったく違う角度で見ることができる。
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