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薬価はついた。では、この会社はいつ「稼ぐ会社」になるのか——サンバイオ

脳梗塞慢性期治療薬「SB623」が世界初の保険適用となったが、出荷開始は2027年初。手元資金168億円は年間燃焼ペース50億円で約3.3年分だが、出荷開始後は製造コストが売上に比例して膨らむ「非線形コスト構造」の罠を解剖する。

はじめに

脳梗塞の後遺症で動かなくなった手が、また動く。

そんな治療薬が、日本で初めて保険適用になった。サンバイオ(4592)が開発した「SB623」の話だ。再生医療等製品として脳梗塞慢性期への適用は世界初であり、医学的には間違いなく「事件」だ。

だが投資家として、あるいはビジネスパーソンとして、今見るべきは別の問いだ。「すごい薬ができた」と「すごいビジネスになる」は、まったく別の話である。この記事では、その溝の正体を解剖する。

第一章——「薬価がついた」のに売上がゼロ——この奇妙な状態の正体

薬価収載とは何か、まず整理しよう。 薬価収載とは、国が「この薬を保険診療で使ってよい」「値段はこれだ」と正式に認定することだ。患者が3割負担で使えるようになる、その入り口である。

サンバイオはこの薬価収載を経て、2027年初の出荷開始を見込むと開示している。

ここで立ち止まる。薬価がついたのに、なぜ出荷が1年以上先なのか。

これがバイオベンチャー特有の「先行費用の壁」だ。再生医療等製品は通常の錠剤と根本的に製造プロセスが異なる。SB623は「異種細胞を用いた加工製品」であり、患者ごとに管理された細胞製造ラインが必要だ。製造施設のバリデーション(品質確認の検証作業)、医療機関への投与トレーニング、流通チェーンの構築——これらすべてが、薬価収載後に並走して進む。言い換えれば、「商品の認定書は手に入ったが、工場と物流と販売員の準備がまだ終わっていない」状態だ。

問題はコストだ。 この準備期間中も、製造管理コスト・人件費・研究開発費は粛々とキャッシュを食い続ける。2025年2月期の有価証券報告書によれば、同社の研究開発費は約46億円、販売費及び一般管理費を含めた営業損失は約52億円規模だ。 売上がほぼゼロの段階で年間50億円超のキャッシュが消えていく。

では手元資金はどれだけあるか。 2025年2月期末の現金及び現金同等物は約168億円。単純計算すると、年間燃焼ペース50億円に対して168億円——約3.3年分のランウェイ(資金が尽きるまでの時間)だ。

一般的なバイオベンチャー分析では「ランウェイが3年以上あれば安全圏」と語られる。だがサンバイオの場合、出荷開始後は製造コストが急増する可能性がある。

再生医療等製品は、出荷量が増えれば増えるほど製造コストが比例的にかかる「規模の経済が効きにくい製品」だ。化学合成の錠剤は大量生産でコストが激減するが、細胞製品はそうではない。つまり売上が立ち始めた瞬間に、コストも同時に膨らむ——この非線形コスト構造を理解せずに「出荷開始=黒字転換」と読むと、完全に誤る。

第二章——社長が「捨てた選択肢」を読む——一本足で戦うと決めた男の論理

サンバイオの森敬太社長が賭けたのは、「SB623一点突破」だ。

バイオベンチャーの経営戦略には大きく二つの道がある。 一つは複数のパイプライン(開発中の薬の候補群)を同時進行させてリスクを分散する道。 もう一つは、最も確度が高い一品目に経営資源を集中して早期承認を取りに行く道だ。

サンバイオは後者を選んだ。この判断の是非を問う前に、なぜそうせざるを得なかったかを見るべきだ。

2019年1月、SB623の慢性期脳梗塞に対する治験(Phase2b)が失敗した。この日の株価は前日比▲80%超。バイオベンチャー史上に残る暴落だった。このとき同社の現金は大幅に減り、追加の大型開発を同時並行で走らせる体力は失われた。

「選択と集中」を戦略と呼ぶか、「選択肢がなかった」と呼ぶかは見方による。だが森社長が賭けたのはここからだ。2019年の失敗後、適応症(治療対象の病気)を変え、試験デザインを変え、規制当局との対話を重ね、2024年に条件及び期限付き承認を取得した。5年かけて一点を掘り続けた。

条件及び期限付き承認とは何か、この言葉を正確に理解している投資家は少ない。これは「まだ全部のデータが揃っていないが、患者への緊急性を考えて先に使わせる」という制度だ。製造販売後に引き続きデータを集め、一定期間内に再審査を受ける義務が伴う。つまりSB623は今後も「承認の維持」というハードルを越え続けなければならない。薬価収載は「ゴール」ではなく「第二の試練の始まり」だ。

経営者が今何を「捨てていないか」も重要だ。 外傷性脳損傷(TBI)への適応拡大という次の一手は継続開発中であり、手元資金の一部がそこに投じられている。一本足に見えて、次の足を育てる費用も同時に出ている。キャッシュの二重消費だ。

第三章——「世界初」はなぜ強みであり罠でもあるか——業界全体への示唆

再生医療業界でサンバイオが置かれた位置は特殊だ。比較できる「同じ土俵の競合」が、ほぼ存在しない。

国内でみれば、ニプロ・澁谷工業などが再生医療等製品の製造受託で関与し、JCRファーマ(4552)が角膜上皮等の再生医療製品で薬価収載の先例を作っている。JCRファーマの「ネピック」は2021年に薬価収載後、初年度の売上は数億円規模にとどまった。市場浸透には数年かかることを示す先行事例だ。

海外ではアメリカのBluebird Bio、Orchard Therapeuticsなどが遺伝子・細胞治療の承認を得ながら、薬価の高さと患者へのアクセス問題で収益化に苦しんでいる。Bluebird Bioは2023年に非上場化を選択した。

「世界初」の罠とは何か。 それは「前例がないから市場規模の試算が誰にもできない」ことだ。アナリストが弾くターゲット患者数(脳梗塞慢性期の該当患者)は数万〜数十万人とされるが、実際に「治療に踏み切る患者と医師の組み合わせ」はそれより大幅に少ない。 なぜか。再生医療等製品の投与は、専門施設・専門医が必要で、全国の一般病院では使えない。

医療機関の認定施設数が、SB623の実質的な「販路の上限」だ。この数字——現時点で何施設が投与可能認定を取得しているか——こそが、売上の天井を決める最重要指標だ。この数字はIR資料や厚労省の公開データで追うことができ、四半期ごとの増減が収益予測の先行指標になる。

ここまで読んだあなたは、すでにサンバイオについて「薬価収載=すごい」という表面理解の先に来ている。だがここからが、この記事の本番だ。

有料パートで答える問いを、正直に全部並べる。

問い1:サンバイオの株価を動かす「次のトリガー」は具体的に何で、それはいつ来るか。現在のバリュエーション(株価の割安・割高の尺度)を、赤字会社に使える「PSR」と「キャッシュバーン倍率」で計算し、買える水準かどうかを判断する。

問い2:薬価の具体的な水準——SB623の保険償還価格は「一治療あたり何円」か、そしてその価格で採算が合う患者数は最低何人か。採算分岐点の計算式を示す。

問い3:強気シナリオ・基本シナリオ・ヤバいシナリオの3つで「3年後のサンバイオ」をどう描くか。

問い4:手元資金168億円は本当に「3.3年分」か。出荷開始後にコストが変化する場合の再計算と、次回の資金調達(増資)のタイミング予測。増資は既存株主の持分希薄化——つまり「あなたの株が薄まる」——を意味するため、この予測は投資判断の核心だ。

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