グノシー決算分析|ニュースアプリの会社が、インドの銀行で値付けされている
Gunosyの営業利益は前年比67.7%減で最終赤字。だが投資先インドの銀行sliceが初の通期黒字を達成。持分法対象外ゆえ利益が反映されない歪みを読む。
この記事の3つの学び
- 本業のコアキャッシュ領域(グノシー・ゲームエイト)の売上は3年連続で毎年6億円規模ずつ減少しており、DAU低下の背景にはニュースアプリの入口が生成AIに代替されつつあるという構造変化がある
- 投資先インドの銀行sliceは持分法適用外のため、収益が2.3倍・初の通期黒字となっても簿価36億円のままGunosyの損益計算書には一切反映されない
- 時価総額から現預金・投資資産の正味価値を差し引くと、本業そのものへの市場評価は約31億円しかなく、市場はGunosyの本業を「縮んでいく現金製造機」として値付けしている
はじめに——この会社の何が、信じられないか
2026年7月15日、株式会社Gunosyが2026年5月期の通期決算を発表した。
売上高64.41億円、前年比プラス5.6パーセント。営業利益1.86億円、前年比マイナス67.7パーセント。そして最終損益は1,100万円の赤字。
数字だけ見れば、よくある「増収減益、そして赤字転落」の会社だ。ニュースアプリの利用が減り、広告市況が悪く、買収した子会社が計画未達。ここまでなら、どこにでもある話である。
だが、この会社の決算には、他のどの会社にもない一行がある。
投資先であるインドの銀行「slice」が、2026年3月期に総収益238億円——前年の103億円から2.3倍——を記録し、純利益8.2億円で初めての通期黒字を達成した。前年は36.8億円の純損失だった会社である。(インドの数字は1ルピー1.70円、2026年7月中旬時点)
もう一度、数字を並べてみてほしい。
Gunosyの売上は64.41億円。投資先sliceの収益は238億円。約3.7倍だ。しかも伸び率は、こちらがプラス5.6パーセント、あちらがプラス132パーセント。
そしてここからが本題である。
sliceの利益は、Gunosyの損益計算書に、1円も入っていない。
持分法適用会社ではないからだ。2024年9月に取締役派遣を中止した結果、持分法の適用対象から外れた。だからsliceがいくら稼いでも、Gunosyの営業利益にも経常利益にも純利益にも、まったく反映されない。
反映されるのは、貸借対照表の「投資有価証券」に、簿価約36億円として置かれているだけだ。
利益は入ってこない。だが会社の価値の大半は、そこにある。
この歪みが、今回の決算の正体だ。
第一章——本業の数字は、正直に壊れている
まず、この会社がどう稼いでいるかを確認する。
グノシーは読者から1円も取らない。金を払うのは広告主だ。通勤電車で誰かがアプリを開き、ニュースの見出しに紛れて並ぶ記事型広告を親指でスクロールし、1つ触る。その1タップごとに、あるいは1,000回表示されるごとに、広告主からお金が落ちる。表示回数と単価の掛け算——これがグノシーの売上のほぼ全てで、ゲーム攻略メディアのゲームエイトも同じ仕組みだ。auサービスTodayはKDDIから運営の対価を受け取り、子会社のGホールディングスだけが、ゲーム内課金という形で利用者から直接お金を取る。
この構造を頭に置いて、表の顔を見る。
期初、会社は営業利益7.8億円を計画していた。第2四半期に国内メディア市況の低迷を織り込んで2.5億円へ下方修正した。そして着地は1.86億円だった。
期初計画に対する達成率は24パーセント。修正した後の計画に対してすら、74パーセントしか届いていない。
理由は二つある。 一つは、コアキャッシュ領域——安定的に現金を生む事業群として会社が括る、グノシーとゲームエイト——の市況低迷。 もう一つは、2025年5月に子会社化したGホールディングスの先行投資の長期化だ。同社は売上9.4億円に対して、営業損失2.12億円を出した。
ここで、もっと重く見るべき数字がある。
コアキャッシュ領域の売上推移だ。2023年5月期が72.7億円、24年5月期が66.2億円、25年5月期が60.5億円、そして26年5月期が54.7億円。
3年間で、毎年6億円ずつ減っている。景気の波ではない。等速で削られている。
グノシーの重要指標を見れば、理由は明快だ。1日あたりの利用者数(DAU)は前年比86パーセント。累計ダウンロード数は103パーセント、継続率は101パーセントなのに、DAUだけが14パーセント落ちている。
新規は取れている。辞める人も増えていない。それでも、開かれる回数が減っている。掛け算の左側が、14パーセント削られたということだ。
これは競合に負けたのではない。ニュースアプリを開く理由そのものが、生成AIによって消えつつあるということだ。会社自身が資料でそう書いている。「AIによる情報の入口の代替」と。
自社の事業の入口が、AIに奪われている。それを認めた上での決算である。
第二章——市場は、この会社の本業をいくらで見ているか
この会社が業界のどの席に座っているかを、先に置く。
同じ広告市場の巨人、LINEヤフーのメディア事業は2026年3月期の売上収益7,351億円、前年比プラス0.4パーセント。横ばいだが、減ってはいない。直接競合のスマートニュースは未上場で、官報に載った2024年12月期の決算公告は純損失32.7億円、累積の損失は191億円。売上は開示していない。巨人が横ばいを保ち、同じ土俵の非上場企業は赤字を掘り続け、Gunosyだけが毎年1割ずつ主力の収益を削られている。市況の問題ではない。席順の問題だ。
その席に、市場はいくら払うか。
決算短信に「時価ベースの自己資本比率94.5パーセント」という一行がある。総資産124.99億円に対する比率だから、逆算すると期末(5月31日)時点の時価総額は約118億円だ。
中身を分解する。総資産124.99億円。うち現預金が約54.3億円。高成長オプション領域——sliceを筆頭とする投資資産——が約50億円。一方、負債は17.4億円しかない。
現預金と投資資産を足すと104.3億円。ここから負債17.4億円を引くと、86.9億円。
つまり、時価総額118億円から、現金と投資の正味価値86.9億円を差し引くと、残りは約31億円。
これが、市場がGunosyの事業そのものに付けている値段だった。
グノシー、ニュースライト、auサービスToday、ゲームエイト、Gホールディングス、IR Hub。すべての事業を合わせて、31億円。
高成長オプション領域を除いたEBITDA——本業が生む現金に近い利益——は5.3億円と会社が開示している。31億円を5.3億円で割れば、約6倍。日本のメディア企業として、高くもなければ驚くほど安くもない。市場は冷静に、この事業群を「縮んでいく現金製造機」として値付けしていた。
そして会社自身が、資料の中でこう書いた。株価はPBR、つまり株価純資産倍率で1倍前後の推移であり、簿価ベースの事業価値とほぼ同等の評価である、と。
上場企業が自ら「自分の事業には成長のプレミアムが付いていない」と認めているのだ。
そして決算発表の翌16日、株価は17パーセント安の388円で引けた。同じ計算をやり直せば、本業に残る値段はほとんど消える。
もし市場が本業をゼロに近い値段でしか見ていないなら、この会社の株を買うということは、何を買うことになるのか。
答えは一つしかない。インドの銀行の、12.65パーセントの持分だ。
そしてここに、この記事の核心がある。その持分は、いくらの価値があるのか。誰も、正確には知らない。
ここから先で、その空白を数字で埋める。
sliceの簿価36億円が何を意味しているのか。新規上場が3〜4年後とされる中で、Gunosyがこの持分を「持ち続けられるか」という財務上の制約。KDDIとの提携解消が28年5月期に開ける、決算書には金額が書かれていない穴の大きさ。そして2026年10月に予定される資本準備金40.9億円の全額取り崩しが、何を準備しているのかという読み。
最後に、この会社を「メディア株」として見ている限り絶対に見えない、たった一つの評価軸を提示する。それが分かったとき、営業利益1.86億円という数字が、まったく別の意味に変わる。
本サイトの内容は、企業分析および学習を目的とした情報提供であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。掲載情報の正確性・完全性を保証するものではありません。