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エブリー(デリッシュキッチン)IPO分析|9期連続赤字の会社が、上場直前に黒字化した「本当の理由」

5期連続赤字だったエブリーが上場直前に黒字転換。広告費抑制と人員据え置きの裏にある構造と、黒字化直後に届いた契約終了通知を読み解く。

この記事の3つの学び

  • 「黒字転換」の実態は、売上原価の増加ペースを上回る勢いで販管費(特に広告宣伝費)の伸びを止めたことによるものだった
  • 売上高が5年で約2倍になる一方で従業員数はむしろ減少しており、成長の裏にある組織体制の課題が有価証券報告書でも認識されている
  • 黒字化の直後、主要取引先(同社株式の大株主でもある)から契約終了の通知を受けており、好調な数字の裏に見えにくいリスクが存在する

はじめに——この会社の何が信じられないか

2021年6月期から2025年6月期まで、株式会社エブリーは5期連続で純損失を出している。

△13.9億円、 △10.5億円、 △5.5億円、 △7.7億円、 △0.3億円。

赤字は減っている。でも赤字は赤字だ。

そして2025年7月〜12月の半年間、この会社は突然黒字になった。営業利益2.4億円。前年同期は数字を見る限り赤字だった事業が、半年で黒字転換した。

さらに2025年7月〜2026年3月の9ヶ月累計では、営業利益3.2億円。

信じられないのはここだ。

この「回復」が起きている最中に、この会社の主要取引先の一社が「契約を終了する」と通告してきている。

普通なら、大口顧客が離れると業績は悪化する。だがこの会社は、その通告を受けた後も黒字を維持している。

これは本物の構造改革か。それとも、上場直前だけ数字を作れる会社なのか。

有報を読み込むと、答えのヒントが見えてくる。

第一章——「デリッシュキッチン」という国内最大級メディアの正体

株式会社エブリー。運営するのは、レシピ動画メディア「デリッシュキッチン」。

月間利用者数3,100万人超。SNS総フォロワー数1,300万人超。累計レシピ本数57,000本以上。アプリ内評価4.4/5.0。

この規模感を、身近な数字に落とす。日本の女性就業者数はおよそ3,000万人だ。デリッシュキッチンの月間利用者数は、それに匹敵する規模がひと月ごとに触れているメディアということになる。

収益源は大きく二つ。

一つ目は「Marketing Solutionビジネス」。食品・飲料メーカーからの広告収入だ。二つ目は「Consumerビジネス」。ユーザーからの月額480円のプレミアム課金だ。

さらにもう一つ、見落とされがちな資産がある。

全国11,000台以上の店頭デジタルサイネージだ。

これが単なる広告面ではない。オンラインのレシピ視聴データと、オフラインの店頭購買データを組み合わせた「1st party data」基盤——ここが、この会社が「動画メディア」ではなく「データ企業」だと言い切れる根拠になる。

このデータ基盤の強さは本物だ。問題は、それをどう収益化してきたかにある。

第二章——5期連続赤字から半年黒字への「急転」を数字で追う

売上高の推移を見る。

2021年20.9億円 2022年24.3億円 2023年25.8億円 2024年33.6億円 2025年42.5億円

5年で約2倍。悪くない成長だ。

問題は損益だ。

2024年6月期、営業損失6.4億円。この年、販管費が拡大し、赤字も拡大した。

2025年6月期、営業損失はわずか0.2億円まで縮小。前期から6.2億円の損失改善。

理由は売上原価の増加ではない。販管費が前年比5.5%減ったからだ。有報にはこう書かれている。「新規ユーザー獲得の効率化による広告宣伝費の減少」。

平たく言えば、新規顧客を取るための広告費を絞った。

そして2025年7月〜12月の中間期、営業利益2.4億円。黒字転換。

2025年7月〜2026年3月の9ヶ月累計、営業利益3.2億円。

売上は伸びている(前年同期比21.5%増)。原価も伸びている(27.5%増)。だが販管費は「前年同期と同程度」と書かれている。

売上が伸びる。原価も伸びる。でも販管費だけ止まる。

これが、赤字から黒字への急転の正体だ。増収の勢いに、コストが追いつくのを止めた。

第三章——従業員191人。5年前の232人より少ない

もう一つ、見過ごせない数字がある。

従業員数の推移。 2021年6月期232人 2022年208人 2023年183人 2024年193人 2025年191人。

売上が2倍になった5年間で、従業員数は減っている。

「筋肉質な組織」と呼ぶこともできる。「成長に人員を追いつかせられていない」と呼ぶこともできる。

この会社は、後者だと考える人間を安心させる材料を出していない。有報の経営課題には「優秀な人材の確保」が明記されている。人が足りないという自覚は、会社自身が持っている。

売上を伸ばしながら人を増やさず、広告費も絞る。これが利益改善の全てのからくりだ。

——ここまでの数字は「表の顔」だ。

急成長。急改善。黒字転換。上場適格性は十分に見える資料だ。

だが、この会社の有報には、この美しい数字の直後に、こう書かれている一文がある。

「今後同グループに対する売上が減少する見込みがございます」

そして続けて。ある大口取引先が「2026年9月30日をもって、同契約を終了する旨の通知」を送ってきたと明記されている。

しかもその取引先の親会社は、この会社の株式を約13〜14%保有する大株主でもある。

顧客であり、株主でもある会社が、契約を切ってきた。

なぜ今、このタイミングで。そして、上場後の業績に、この契約終了はどれだけの穴を開けるのか。

続きでは、この「不都合な事実」を数字で解剖する。

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