SIGNAL
決算分析有料

パソナ FY2026通期決算分析|事業は黒字、本社が赤字。「1,370億円の使い道」を数字で解剖する

2年連続営業赤字のパソナだが、事業セグメント単体では約135億円の黒字。本社コスト146億円が飲み込む構造と、赤字下でも75円配当を続ける原資を読む。

この記事の3つの学び

  • セグメント別に見るとHR事業を中心に約135億円の黒字だが、「消去又は全社」の本社コスト146億円がそれを飲み込み、連結では営業赤字になる構造がある
  • 2024年のベネフィット・ワン売却益1,120億円が、赤字下でも1株75円の累進配当を約束できる原資になっているが、フリーキャッシュフローは2期合計で677億円のマイナスであり、原資は着実に減っている
  • 淡路島の観光事業への投資は来期さらに赤字幅が拡大する計画であり、本業の稼ぐ力と成長投資のタイムラグが、この会社の財務体力を試す局面が続く

はじめに——赤字の会社が、なぜ75円配当を約束できるのか

2026年7月15日、パソナグループが2026年5月期の決算を発表した。

売上高3,085億円。 営業損失11.5億円。 親会社株主に帰属する当期純損失33.9億円。

2年連続の営業赤字。最終赤字も2年連続だ。

ここまでなら「業績不振の人材会社」という一行で片付けられる。

だがこの会社は同時に、こう宣言している。

「2030年5月期まで、1株当たり75円を下限とした累進配当(減配せず、維持か増配だけを続ける配当方針)を実施する」

赤字の会社が、5年先までの配当を約束している。 配当金総額は年間約29億円。純損失34億円の会社が、だ。

普通に考えれば、成立しない。

しかしこの決算書を最後まで読むと、成立する理由と、その理由が抱える時限装置の両方が見えてくる。

鍵は、2年前にこの会社の金庫に転がり込んだ1,370億円の現金だ。 今日はその行方を、キャッシュの動きから解剖する。

第一章——表の顔:赤字幅は縮小し、来期は黒字予想

まず表の数字を確認する。

売上高は3,085億円、前期比0.2%の微減。官公庁向けBPOの大型受託案件が峠を越え、人材紹介が社内システム刷新の混乱で失速した。一方、子育て支援などの生活支援事業と淡路島を中心とする観光事業は、いずれも二桁の増収だった。

ここで、この会社が誰からどうお金をもらっているかを押さえておく。 売上の9割はHR事業だ。 人材派遣なら、派遣スタッフを企業に送り、企業から時間あたりの派遣料金を受け取り、スタッフに時給を払った残りが粗利になる。 BPO(企業や官公庁の間接業務を丸ごと請け負う事業)なら、コールセンターや事務センターの運営を受託して受託料を受け取る。人が働いた時間がそのまま売上になる商売であり、その粗利率は22.8%と前期から0.8ポイント改善した。事業の中身が腐っているわけではない。

利益はどうか。

営業損失は11.5億円と、前期の12.4億円からわずかに改善。経常利益は1.4億円と黒字転換した。大阪・関西万博での協賛金収入と物販収入が営業外収益を押し上げた格好だ。

最終損失は33.9億円。前期の86.6億円から52.7億円改善した。前期に48億円あった万博出展関連の特別損失が、今期は11億円まで減ったことが大きい。

そして会社は来期、2027年5月期に営業利益15億円の黒字転換を予想している。

「万博という一時費用が終わり、正常化に向かう」——これが会社の描く物語だ。表の顔だけ見れば、底打ちの決算に見える。

第二章——この会社の営業赤字は、事業の赤字ではない

ここからが、この決算の本当の読みどころだ。

セグメント別の営業利益を並べてみる。

HRソリューション(BPO・派遣・紹介)は営業利益142億円。利益率5.0%。 ライフソリューションは4.8億円の黒字に転換。 グローバルは2.7億円の黒字。 地方創生・観光は14.9億円の赤字。

事業を全部足すと、約135億円の黒字だ。

では、なぜ連結が営業赤字になるのか。

「消去又は全社」が146億円のマイナスだからだ。

つまりこの会社は、事業が赤字なのではない。本業のHR事業が稼ぐ142億円を、本社コスト146億円がまるごと飲み込む構造になっている。全社コストは売上の4.7%。利益率一桁の商売で本社がこれだけ持っていけば、連結の営業利益率は0%前後に張り付く。今期は▲0.4%。前期と寸分違わず同じ数字だ。

同業と比べると、この構造の異様さが際立つ。業界最大手パーソルホールディングスの2026年3月期は売上収益1兆5,558億円、純利益426億円。規模はパソナの約5倍で、最終利益はきちんと残る。だが事業単体を見ると、パーソルの人材派遣部門の営業利益率は5.0%。パソナのHR事業と全く同じだ。現場の稼ぐ力は互角。差がつくのは、その上に乗る本社の重さだけ、ということになる。

ここまでが、決算短信を丁寧に読めば誰でも辿り着ける構造だ。

だが本当の問いは、この先にある。

この会社には2024年、子会社ベネフィット・ワンの株式売却で1,120億円の売却益が転がり込み、現金は1,370億円に膨らんだ。あれから2年。手元の現金同等物は546億円まで減っている。

2年で、約820億円。

赤字を埋めたのか。未来に投じたのか。それとも——。

現金の行き先を追うと、この会社が「人材会社」の看板を掛けたまま、まったく別の会社に作り変えられている途中だという事実が浮かび上がる。そして75円配当の約束が、いつまで持つのかの計算もできてしまう。

ここから先は、その全部を数字で語る。

この分析の続きを読む

SIGNAL PROなら、すべての記事が読み放題。

SIGNAL PROを始める

noteで登録します。いつでも解約できます。

本サイトの内容は、企業分析および学習を目的とした情報提供であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。掲載情報の正確性・完全性を保証するものではありません。

SIGNAL PROを始める