Nebius Q1 2026決算分析|営業赤字なのに純利益930億円。売上7.8倍の「AIクラウドの怪物」が持つ三つの顔を解剖する
営業損失192億円、純利益930億円、営業CFプラス3,400億円という同居できない三つの数字。純利益の正体は保有株式ClickHouseの評価益で、現金は1円も生んでいない。本業赤字の会社に3,400億円が流れ込んだ本当の理由を解剖する。
この記事の3つの学び
- 純利益6.21億ドルの大半は保有するClickHouse株式の評価益7.81億ドルによるもので、本業(調整後純損失1.00億ドル、前年比20%拡大)は依然として赤字が続いている
- AIクラウド事業の売上は前年比841%増、ARRは19.2億ドル(前年比674%増)に達し、NVIDIAが20億ドルを出資、Metaとは総額270億ドルの5年契約を締結している
- 営業キャッシュフロー22.6億ドルの主因は前受収益31.98億ドルの増加(長期前受収益が3ヶ月で3倍)で、有利子負債も3ヶ月で2倍になっており、サーバーの償却年数を4年から5年に延長する会計変更も同時に行われている
はじめに——三つの数字が、同時に存在している
2026年5月13日、ナスダック上場のNebius Group(NBIS)が第1四半期決算を発表した。
この決算には、普通なら同居できない三つの数字が並んでいる。
営業損失、1.28億ドル(約192億円)。 純利益、6.21億ドル(約930億円)。 営業キャッシュフロー、プラス22.6億ドル(約3,400億円)。
本業は赤字。なのに最終利益は巨額の黒字。そして現金は、利益の3倍以上のペースで流れ込んでいる。
どれが本当の顔か。
Nebiusを率いるのは、アルカジー・ヴォロジュ。ロシアの「Google」と呼ばれたヤンデックスを作り、そのすべてを切り離してアムステルダムで再起した男だ。彼が二度目に作ったのは検索エンジンではない。AIの計算力そのものを売る「AI工場」だ。
売上高は前年同期比7.8倍。NVIDIAが3,000億円を出資し、Metaとは約4兆円の契約を結んだ。
市場はこの決算を「怪物的成長」と評価した。 その評価は、半分だけ正しい。
数字を一枚ずつ剥がしていく。
第一章——表の顔。売上684%増という異常値
まず事実を確定させる。
Q1の売上高は3.99億ドル(約600億円)。前年同期の0.51億ドルから684%増えた。1年で約7.8倍だ。
中核のAIクラウド事業だけ見ると、さらに凄まじい。売上3.90億ドルで前年比841%増。前四半期比でも82%増と、成長は加速している。
ARR(年間換算の経常収益)は19.2億ドル、約2,880億円。前年比674%増だ。
調整後EBITDAは1.30億ドルの黒字に転換した。前年は0.54億ドルの赤字だった。AIクラウド事業単体の調整後EBITDAマージンは45%。前四半期からほぼ倍増している。
外部からの評価も並んだ。
NVIDIAが20億ドル(約3,000億円)を出資。 Metaと総額270億ドル(約4兆円)、5年の大型契約。同社史上最大のディールだ。 確保済み電力は3.5GWを超え、年末目標を4GW超に引き上げた。ペンシルベニアに1.2GWの自社AI工場も発表した。
2026年通期ガイダンスは売上30〜34億ドル、ARR70〜90億ドル。
ここまでが「表の顔」だ。
非の打ち所がない。
だが、純利益930億円の中身を開けた瞬間、景色が変わる。
第二章——純利益930億円の正体は、1円も現金を生んでいない
損益計算書をもう一度見る。
営業損益は1.28億ドルの赤字だ。前年の1.20億ドルの赤字から、むしろ赤字幅はわずかに広がっている。
では、なぜ純利益が6.21億ドルの黒字なのか。
答えは一行の勘定科目にある。 「投資有価証券の評価益、7.81億ドル」。
Nebiusが株を持つデータベース企業ClickHouseが、2026年1月に約150億ドルの評価額で資金調達をした。その持分の帳簿価格を引き上げた「評価益」が約1,170億円。これが純利益のほぼ全てだ。
現金は1ドルも入っていない。株を売ったわけでもない。会計上、価値が上がったと「認識」しただけだ。
証拠に、この評価益や株式報酬を除いた調整後純損失は1.00億ドルの赤字。しかも前年の0.84億ドルから赤字は20%拡大している。
つまりこうなる。 本業の最終赤字は、まだ広がっている。 黒字に見えるのは、持ち株の値上がりを計上したからだ。
ここまでは、決算書を丁寧に読めば誰でも辿り着ける。
本当の謎は、その先にある。
本業が赤字の会社に、なぜ一四半期で3,400億円もの営業キャッシュが流れ込んだのか。営業CFが純利益の3倍以上——この比率は、通常のクラウド企業ではあり得ない。
キャッシュフロー計算書の中に、この会社の成長モデルの核心と、最大の脆さが同時に書かれていた。それは「未来の売上を、先に現金で受け取る」という構造だ。誰が、いくら、何のために前払いしたのか。そして負債の部では、有利子負債がわずか3ヶ月で2倍になっている。さらに、償却費を圧縮する会計上の変更が、今期からひっそり適用されていた。
この三つを繋げたとき、Nebiusという会社の本当の設計図と、投資家が見落としているリスクの在り処が見えてくる。
扉を開けてほしい。
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